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広島地方裁判所 昭和54年(ワ)422号 判決

原告

白石国次

被告

広島マシン株式会社

ほか一名

主文

1  被告らは原告に対し各自五四四万〇〇五〇円及び内金四二四万〇〇五〇円に対する昭和五一年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その余を被告らの各負担とする。

4  この判決は原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

一  申立

原告は「被告らは原告に対し各自二一八〇万二一一六円及び内金一九八〇万二一一六円に対する昭和五一年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、

被告らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  原告の主張

1  事故の発生

原告は次の交通事故により重傷を負つた。

(一)  日時 昭和五一年五月一三日午後五時二〇分頃

(二)  場所 広島市中区西十日市町七―九先路上

(三)  加害車両

1(1) 普通貨物車 (広島四四な九九八七号)

(2) 右運転者 古城三夫

(3) 右運行供用者 広島マシン株式会社

2(1) 普通貨物車 (広島四四は七三二八号)

(2) 右運転者 弓立克己

(3) 右運行供用者 株式会社弓立商店

(四)  事故の態様

右1及び2の加害車両運転者双方が、本件事故の現場である信号機の無い交差点内に侵入する際、徐行義務を怠つて制限時速を超えるスピードで侵入した為、右交差点内において、右2の車両が1の車両の右側面に出合い頭に激突し、その弾みで2の車両は右前方に急転進して歩行中の原告に衝突し、転倒させた。

2  責任原因

被告広島マシン株式会社は右加害車両1を当時使用人であつた古城三夫に、被告株式会社弓立商店は右加害車両2を同社代表取締役の息子弓立克己にそれぞれ運転させて、自己の為運行の用に供していた。

3  傷害及び治療経過

(一)  原告は本件事故により、出血性シヨツク、腎小網・すい臓・肝・十二指腸じん帯破裂、骨盤環骨折・第二腰つい右横突起骨折・急性肝炎・腹壁ヘルニア等の傷害を受け、昭和五一年五月一三日から同五二年二月一五日まで及び同五三年一月三一日から同五三年二月二八日まで原田病院に入院し、同五二年二月一六日から同五三年一月三〇日まで及び同年三月一日から同年七月二〇日まで同病院に通院し治療を受けた。

(二)  原告の右傷害は、昭和五三年七月二〇日一応症状が固定したものの、腹壁はん痕ヘルニア、すい臓欠損等胸腹部臓器の機能に障害を残し、且つ体力の回復は将来困難である為、服することができる労務が相当な程度に制限されており、右後遺症は自賠法施行令別表の第九級一一号に認定された。

4  損害

(一)  看護料 金一六万六〇〇〇円

原告は事故直後である昭和五一年五月一三日から同年八月三日までの計八三日間は危篤状態であつた為、その間原告の妻白石良子及び母親白石テルが交互に付添看護することを余儀無くされた。

右付添費用として、一日金二〇〇〇円とみるのが相当であるから、右付添費の合計は金一六万六〇〇〇円となる。

(二)  慰謝料 計金五六〇万八〇〇〇円

1 入通院慰謝料 金一六八万八〇〇〇円

原告は、自らには何ら過失のない本件事故により前記の通り受傷して入院(三〇八日間)及び通院(四九一日間)して治療を受けるに至つたのであるが、特に事故直後三カ月間は、危篤状態に陥り生死の間をさまよつたうえ、治療経過も思わしくなく入退院を繰り返した。

よつて、原告の右精神的苦痛を慰謝するには金一六八万八〇〇〇円が相当である。

2 後遺症慰謝料 金三九二万円

原告は、前記の通り後遺症第九級一一号に認定されたのであるが

(1) 胸部中心部から腹部中心部にかけてヘルニア症状が残存している為、飲食した際には右ヘルニア部分の膨張をきたし不快感・腹痛を生じ、又不眠症などの後遺症に悩まされている。

(2) 右ヘルニアは将来とも完治する見込みは無く、将来悪化するおそれがあるうえ、腸腔内には高度の癒着症状があり将来腸閉塞症を生ずる危険性が多分にあるなど病状の再発悪化の不安にさいなまれている。

(3) 又すい臓欠損により消化不良症状を生じている為、今後長期間にわたり消化剤の服用を要するうえ、アルコール・たばこ・冷物などの刺激物の飲食は一切禁じられており、嗜好品・食事の選択に大きな制約を受けるなど日常生活に支障をきたしている。

(4) 前記後遺症による体力回復が困難であること及び病状の再発悪化のおそれがある為、原告の勤務部所は中国電気工事株式会社本社資材課という同社中枢部門から中国電気工事健康保険組合に変えられ職務上の地位において不遇に甘んじている。

右のように、原告は本件事故の後遺症によつて多大な精神的苦痛を受けているのであつて、原告の右精神的苦痛を慰謝するには金三九二万円が相当である。

(三)  労働能力喪失による将来の逸失利益 金二一八六万八一一六円

1 原告は本件事故前健康な男子であつて、本件事故に会わなければ六七歳迄の三三年間、原告の勤務会社である中国電気工事株式会社における職員モデル賃金基準額と同額程度の所得は充分これを獲得しえたものである。

2 症状固定時である昭和五三年度(昭和五三年四月から翌五四年三月迄)の右原告勤務会社における高卒、三四歳時基準所得は金三二五万七〇〇〇円である。

3 原告は前記の通り、自賠法施行令後遺症障害別等級表第九級一一号に認定され、その労働能力喪失率は三五%であり、又同喪失期間は前記後遺症の態様から症状固定時以降原告の可能労働年限である六七歳迄継続するものと考えられる。

よつて、右所得を基準として原告の逸失利益の現在価額を年別累計ホフマン方式計算で中間利息を控除して計算すると金二一八六万八一一六円となる。

尚、右逸失利益の計算において、原告勤務会社は大手企業であつて毎年のベースアツプ率は五%を下らないところ控え目に症状固定年次年間所得分を計上した。

(四)  弁護士費用 金二〇〇万円

1 示談の経緯

被告らは、昭和五四年四月一二日に至つて具体的交渉に応じたものの、同月二四日におけるその支払呈示額は、治療費・休業補償費・雑費等を除き、傷害及び後遺症慰謝料金三〇〇万円強、逸失利益については金五〇〇万円強というもので、前記原告の請求額と格段の相異を生じていた為、被告らに再考を求めたのであるが、被告らはそれに応じる意思の無いことを明らかにした。

2 そこで原告は、本件損害賠償請求権の時効完成が目前に迫つていることもあつて、裁判に救いを求める他なく、本代理人に本訴提起を委任し、右損害額の一割を下回らない額を弁護士費用として支払う旨約したが、本訴ではこの内金二〇〇万円を請求する。

(五)  右損害金合計 金二九六四万二一一六円

5 損害の填補

前記損害のうち、金七八四万円(本件は共同不法行為の為、自賠責後遺症保険金が三九二万円の二倍支出された)が慰謝料・逸失利益として支払われている。

6 よつて、原告は被告らに対し共同不法行為に基づき、前記4の合計額金二九六四万二一一六円から前記5の金七八四万円を控除した金二一八〇万二一一六円及びこれより弁護士費用を控除した一九八〇万二一一六円に対する事故の翌日である昭和五一年五月一四日から支払済み迄民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  被告らの主張

原告の主張1の事実は認める。但し(四)事故の態様中、徐行義務を怠り制限時速を超えるスピードで侵入したとの点は否認する。2の事実は認める。その余の点は争う。但し後遺症の級別が原告主張の第九級一一号と認定されたことは認める。

四  証拠〔略〕

理由

一  原告主張の1の事実中、事故の態様につき、徐行義務を怠つて制限時速を超えるスピードで侵入したとの点を除き当事者間に争がなく、被告らが本件各加害車両をそれぞれ運行の用に供していたことも当事者間に争がないところであるから被告らは原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二  そこで原告の蒙つた損害について検討する。

成立に争のない甲第一号証、証人白石良子、原告本人の各供述を総合すると、原告は本件事故により、出血性シヨツク、腎小網・すい臓・肝・十二指腸じん帯破裂・骨盤環骨折、第二腰つい右横突起骨折、急性肝炎、腹壁ヘルニア等の傷害を受け、昭和五一年五月一三日から同五二年二月一五日まで及び同五三年一月三一日から同年二月二八日まで原田病院に入院し、同五二年二月一六日から同五三年一月三〇日まで及び同年三月一日から同年七月二〇日まで同病院に通院し治療を受けたこと、原告の右傷害は同日症状固定したが腹壁はん痕ヘルニア、すい臓欠損等胸腹部臓器の機能に障害を残したことを認めることができる。

(一)  看護料

原告は事故直後の昭和五一年五月一三日から同年八月三日までの八三日間は危篤状態であつたため原告の妻と母とが交互に付添看護することを余儀なくされたとしてその間の妻又は母の付添費用を請求する。証人白石良子の供述によると同年五月一七日からは付添婦がつけられたことが認められ、原告の妻又は母による付添費用は同月一三日から同月一六日までの四日間に限り本件事故による損害と認めるのが相当であり、その金額は一日につき二〇〇〇円とするのが相当であるからその合計は八〇〇〇円となる。

(二)  慰藉料

(1)  入通院慰藉料

原告は本件事故により前記のとおり受傷し三〇八日間入院し、四九一日間通院して治療を受けており、その間多大の精神的苦痛を蒙つたことは明らかであり本件に顕れた諸般の事情を考慮するとその慰藉料の額は一一〇万円とするのが相当である。

(2)  後遺症慰藉料

原告が後遺症第九級一一号に認定されたことは当事者間に争がなく、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮するとその慰藉料の額は一六〇万円とするのが相当である。

(三)  労働能力喪失による逸失利益

成立に争のない甲第五・第六号証、原告本人の供述により真正に成立したものと認められる甲第二ないし第四号証、第二〇号証、原告本人の供述、弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件事故による受傷後昭和五二年二月一五日まで入院し、同年四月から従前の勤務先の中国電気工事株式会社へ出勤したこと、そのころ同会社の資材課から健康保険組合へ配転されたこと、昭和五三年一月三一日に再入院しヘルニア等の手術を受けたうえ同年二月二八日に退院したこと、その後右会社に通勤しているが酒・煙草等を禁止され、運動を制限されていること、給与の面においても同時期に入社した者よりも現在において月額五〇〇〇円程度低くなつていること、以後の昇進・昇給の面においても本件事故がなかつた場合と比較し不利益を蒙るものとなること等の事実を認めることができる。

右事実によると原告は本件事故による後遺症のため労働能力を一五パーセント喪失したものと認めるのが相当であり、原告の前記後遺症よりすると原告の就労可能な六七歳まで続くものと認められる。

原告本人の供述により真正に成立したものと認められる甲第二号証、原告本人の供述によると、原告の症状固定時の原告勤務会社の高卒三四歳時の基準所得額は年額三二五万七〇〇〇円であることが認められ、右のように原告の労働能力喪失率は一五パーセントでありそれが三三年間続くものと認められるので、その間の逸失利益は新ホフマン方式で中間利息を控除すると九三七万二〇五〇円となる。

(四)  弁護士費用

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は一二〇万円とするのが相当である。

三  以上のとおり被告らは本件事故による損害賠償として原告に対し一三二八万〇〇五〇円を支払うべき義務があるところ、そのうち七八四万円の支払を受けたことは原告において自認するところであるから被告らは原告に対し各自五四四万〇〇五〇円及び弁護士費用を除いた四二四万〇〇五〇円に対し本件事故後の昭和五一年五月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を付加して支払うべき義務がある。よつて原告の本訴請求中右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、民訴法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 糟谷邦彦)

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